Never ask clients what they want

クライアントに『どんなデザインがいいですか?』と聞いてはいけない
November 1, 2022

*This article is Japanese only. I may be posting the English ver. in the future.

『どんなデザインがいいですか?』は聞かない

私がデザイナーとして仕事を始めてまだ間もない、20歳そこそこの頃。クライアントと食事に行ったとき、「どんなデザイナーになりたいのか」と聞かれました。私は真面目に、笑顔でこう答えました。「松丸さんとは仕事しやすいからお願いしたい、と言われるような、優しいデザイナーでありたいと思います」そのときのクライアントの反応は、想定していたものとまったく違いました。

「いやいや、そんなデザイナー目指しちゃ絶対ダメでしょ。嫌なやつだし、できれば仕事したくないけど、あいつのデザインじゃなきゃダメだ、って言われるデザイナーになりなよ」

当時の私には衝撃的な言葉でした。面食らった私は、その言葉をしばらく消化できませんでした。当たり前のような気もするし、どこか間違っている気もする。答え合わせのできない回答用紙を、心の中に置きっぱなしにしているような感覚でした。その後も何度かこの会話を思い出しては、自分の行動を振り返ることがありました。当時の私には「お客様は神様」というサービス業的な価値観が強く染みついていました。クライアントを不快にさせることなどあってはならない。むしろ、自分の意見や考えを押し殺すことも仕事の一環だとすら思っていたほどです。今振り返ると、20代の私は単純にまだ仕事ができませんでした。「嫌なやつだけど仕事が来る」ほどの実力もない。だからこそ、せめて「仕事しやすい人」というポイントで補うしかなかったのだと思います。経験も少なく、スキルも足りないのに、もし嫌なやつだったら——そりゃ仕事はなくなりますよね。


アート目線

お客さんの御用聞きのような仕事ではなく、「表現力」という言葉に守られた、少しアート寄りの仕事へと、自分のスタイルを勝手にシフトしていったのです。私は幼稚園の頃からお絵かき教室に通い、アートと共に歩んできました。それでも、それまで作ってきたものの多くは、結局は誰かのためのものでした。相手が求めるものを作ること。それがすべてでした。ところが30代になる頃から、「自分が作りたいもの」という視点が少しずつ混ざり始めます。それに伴って、クライアントへのヒアリングの仕方も変わっていきました。駆け出しの頃は、クライアントの言葉をそのまま受け取っていました。ナンセンスで矛盾だらけの要望でも、どうにか実現しようと必死でした。

例えば、「かっこいいんだけど、かわいくて、派手さの中に落ち着きがあって、親しみやすい高級感」とか。

あるいは、「シンプルにしたいんだよね。こんな感じに」と渡された参考資料が、まったくシンプルではなかったり。

これはもうデザイナーあるあるですが、この話は永遠に語れそうです。こうした要望をそのまま受け取ってしまうと、とんでもないものが出来上がります。言われた通りに作ってみせても、クライアントは渋い顔をする。かといって、「いや、でもあなたそう言いましたよね」と責めるわけにもいかない。結果として、とてつもない時間とエネルギーを使いながら、壁にぶつかっては修正し、またぶつかりながらゴールに向かうことになります。極端な話のように聞こえるかもしれませんが、実際にはこういうプロセスで仕事をしているデザイナーはかなり多いと思います。そりゃ精神的に参ってしまう人も出てきますよね。理不尽なクライアントの要望については、それだけで面白い話になりそうなので、また別の機会に。ここではヒアリングの話をしてみたいと思います。


ヒアリング

ある時期から、私は気づきました。クライアントが「何を作りたいか」は、実はそれほど聞かなくてもいいのではないか、と。それよりも、ターゲットや対象となる商品をよく理解することの方が、良いものを作るための近道だったりします。これは、かなり遠回りしてから気づいたことでした。

例えば、クライアントがこれから飲食店を始めるとして、ブランディングを一括して任せたい、という相談が来たとします。

ここで

「どんなデザインがいいですか?」
「イメージに近いお店はありますか?」

と聞いてしまうと、納品までの道のりが一気に険しくなります。

なぜなら、その瞬間からクライアントは「好きなお店リスト」を作り始めるからです。そして数日後、統一感のない参考資料が大量に届きます。それぞれのお店は素晴らしい。でも、互いに何の共通点もない。そんな資料を前に、「こんな感じで!」と、本人は矛盾に気づかないまま、興奮気味に説明してくれます。起業前の酩酊状態のクライアントを前に、こちらが「?」という顔をしても、流れは止まりません。「いいからやってみて」という空気になります。

ストーリーを聞く

そこで私が今やっているのは、クライアントのイメージを聞かないことです。代わりに聞くのは、ストーリーです。

なぜ飲食店を始めたいのか。
なぜその場所なのか。
どんなお客さんに来てほしいのか。
どんなお店にしたいのか。

もっと言えば、その人の生い立ちや、ここに至るまでの経緯。お店に込めた思いや、隠れたこだわり。そういう話の中に、ブランディングのヒントが必ず隠れています。そこから「自分だったらこうする」という視点で形にしていく。そうすると、思いの強いデザインが出来上がります。そして何より、そのデザインには語れる理由が生まれます。「お話を伺う中で、素材へのこだわりは前面に出した方が良いと思ったので、ここはこうしました」「実はこのマーク、よく見ると〇〇の形になっていて…」そんなふうに説明すると、クライアントも「そうきたか」という顔をしてくれることが増えました。

もしかするとこれは、単に私が年齢を重ねただけなのかもしれません。20代の頃は、無駄にブランドものを身につけてヒールを履き、文字通り背伸びをしていました。用意した言葉を話しても、「いや、それは違う」と一蹴されて、「ですよね〜」とすぐ引っ込んでいた私。それが今では、ユニクロを着ていても、自信を持って自分の成果物を語れるようになりました。最近はむしろ、一人のインタビュアーのような気持ちでクライアントの話を聞く時間がとても楽しいのです。デザインのことは、あとで考えればいい。まずはその人の話を聞くこと。そのビジネスに興味を持つこと。それが、受注から納品までのプロセスを一番スムーズにしてくれる秘訣なのかもしれません。

だから私は、最初に「どんなデザインがいいですか?」とは聞かないようにしています。