Never ask clients what they want

クライアントに『どんなデザインがいいですか?』と聞いてはいけない

*This article is Japanese only. I may be posting the English ver. in the future.

『どんなデザインがいいですか?』は聞かない


私がデザイナーとして仕事をはじめてまだ間も無い20歳そこそこの頃、クライアントと食事に行った際に『どんなデザイナーになりたいのか』というような質問に対し『松丸さんとは仕事しやすいからお願いしたい、と言われるような、優しいデザイナーでありたいと思います』というような事を真面目に笑顔で答えたのを覚えています。その時のクライアントの反応が想定外過ぎて、その後何度もこの会話のシーンを思い出しました。

『いやいやそんなデザイナー目指しちゃ絶対ダメでしょ。嫌なやつだし出来れば仕事したくないけどあいつのデザインじゃなきゃ、って言われるようなデザイナーになりなよ』と。

当時の私には衝撃的な発言で、面食らった私はしばらくその言葉を消化しきれず何日も考えました。当たり前のような気もするし、なんだか間違っている気もするし、と、答え合わせ出来ない回答用紙をしばらく心に置きっぱなしにするしかなく、たまにこの質問を思い出しては自分の行動を振り返る事もありました。

『お客様は神様』というサービス業としてあるべき姿みたいなものがすでに定着していた私にとって、クライアントを嫌がらせる事なんてあってはならないというクライアント絶対主義みたいな考えが凝り固まり、何なら自分の意見や考えを押し殺すのは仕事の一環だとすら思っていました。

結局、嫌なやつでも仕事がくるという程仕事の出来なかった20代の私には、仕事のスキルを『仕事しやすい』というポイント稼ぎで補うしか術がなかったようにも思います。経験も少なくて仕事もできないくせに嫌なやつだったらそりゃ仕事なくなっちゃいますからね。



アート目線

そんな『何でもやります』的な姿勢だった20代の私がもう少し自己中に仕事が出来るようになった30代。お客さんの御用聞きのような仕事ではなく、『表現力』というキーワードに保護された、アート寄りの仕事に勝手に変えていった頃から仕事の楽しみ方がレベルアップしました。

幼稚園の頃からお絵かき教室に通いアートと共に歩んできた人生ではあったものの、それまでは結局自分以外の人のために作っていたものがほとんどで、相手が求めるものを提供する事が全てだった私のアートが、自分が作りたいものという自己中心的なものにシフトしていきました。クライアントに対するヒアリングもより抽象的になりました。相手がイメージしているものをただ小綺麗にビジュアル化して対価を頂いていた駆け出しデザイナーの頃は、ナンセンスで矛盾だらけなクライアントの要求にいかに応えるかひたすら考えて、納得してもらえるように何案も出すというスタイルでしたが、そんな身を削る方法は長続きしませんでした。『かっこいいんだけどかわいくて、派手さの中に落ち着きがあるような、親しみやすい高級感』という支離滅裂な要望や『シンプルにしたいんだよね、こんな感じに』と渡されるものがシンプルとはかけ離れたものだったり。永遠に話し込めそうなデザイナーあるあるですが、こんなクライアントの要望を間に受けていたら強烈なものが出来上がってしまいます。その通り作って渋い顔されて『いやでもあなたそう言いましたよね』とクライアントを責めるわけにはいかず、もうとんでもなエネルギーと時間を無駄にしながら、ボコボコ壁にぶつかりながら軌道修正してゴールに向かうようなプロセス。極端な例のように聞こえますが、結構こんな感じでデザイナー業務を遂行している人って多くて、そりゃ精神的にも参っちゃう人とか出てきちゃいますよね。理不尽なクライアントの要望はまとめると面白いものが出来そうなので、それはそれでまた次の機会に掘り下げるとして、抽象的なヒアリングの話をしましょう。


ヒアリング

クライアントが何を求めているかとか、実はあまり聞かなくて良くて、ターゲットや対象となる商品について熟知する事の方が良いものを作るのに近道だったりするという事に、多くの回り道を経験してから気が付く愚かな私。

例えばクライアントがこれから飲食店を開けるのでブランディングを一括して任せたいという相談がきたとします。クライアントに『どんな方向性が良いですか?想定しているものやイメージと近いお店などあれば教えてください』なんて聞いてしまった日には、もう納品まで険しい道のりが約束されたようなものです。そんな質問をするとクライアントの好きなお店をかき集めて資料として渡され、全く統一感のない、それぞれはしっかりとブランディングが確立されたものであっても、何の共通点もない複数の店舗を例に、こんな感じで、と自分の矛盾に気がつかず興奮気味で話されます。起業前の酩酊状態のクライアントを前に『?』という顔をしても『いいからやれ』的な流れにしかなりません。

この場合の対処法として、私なりに最も効果的なのは、クライアントのイメージしてるブランディングなど一切聞かず、クライアントのストーリーを聞き出します。なぜ飲食店をはじめたいのか、なぜその場所なのか、コンセプトは何か、どういったお客さんに来てほしいのか、どんなお店にしたいのか、お店に対する思い、などなど。その人の生い立ちやお店オープン至るまでの経緯や、隠されたこだわりなど、その中にブランディングのヒントがあったりします。それらをヒントに、自分なら、という観点で作っていくと、思いの強いものが出来上がります。また、そうやって作り上げたものは多く語れるので、クライアントも納得してくれやすいものです。『お話を伺う中で、素材へのこだわりは全面に出した方が良いと思ったのでここはこうして、実はこれはよくみると〇〇になっていて、、、』ほうほう、とクライアントも『そうきたか』みたいな嬉しい反応を見ることが増えました。

いや実はこれは私が年齢を重ねたせいで話す言葉にも重みが増して、一種の貫禄みたいなものが成せる技なのか。10-20代の頃は無駄にブランドものを纏ってヒールを履いて、文字通り背伸びして、用意した言葉に『いやそれは違う』とクライアントにひと蹴りされて『ですよね~』とひるんでいたのに。ユニクロで自信たっぷりに自分の成果物を語れるようになった今、一個人インタビュアーとして、クライアントとそのビジネスに興味を持って、色々話を聞かせてもらうというプロセスがとても楽しくなりました。デザインのことは後から考えるとして、まずクライアントの話を聞くのを楽しむことが、受注から納品までのプロセスがスムーズにいく秘訣な気がします。