Design is not about marking up the margin

デザインは、売値を上げるためのマジックツールではない
March 12, 2026

数ヶ月前に、沖縄のローカル番組『カレッジセールの英雄会議』さんに出演させて頂きました。デザインについてや、ローカルメーカーさんとのコラボについてお話する機会があり、その中で「クライアントからデザイン費を頂かず、デザインを施して価格を調整し、自分のお店で販売する」という取り組みについて少し説明しました。放送後、思っていた以上に反響がありました。ブランディングの相談などに加えて、特に多かったのがプライシングについての質問でした。多くの方と話す中で、少し誤解されているのではないかと感じたことがあります。それは「デザインという付加価値で、商品の値段を吊り上げている」というイメージです。

でも、私の考えは少し違います。私は、300円の商品にパッケージデザインを施して600円で売る、というようなことをあまり美徳だとは思っていません。デザインは、値段を吊り上げる魔法ではないと思っているからです。

商品の価格構造

当たり前の話ではありますが、少し商品の価格構造の話をすると、大手メーカーの商品が市場に流通する場合、製造者から販売者に直接商品が渡るわけではありません。広告代理店や問屋など、さまざまなプレイヤーが関わり、その分コストが積み重なっていきます。さらにメーカーの規模が大きくなれば、製造だけでなく営業などの人件費もかかります。その上で、百貨店やショップは高い家賃と販売員の人件費を負担しています。一般的には5〜6割の掛け率で仕入れが行われ、売上の4〜5割ほどが販売側の利益になります。つまり商品が店頭に並ぶまでには、かなり多くのコスト構造が存在しています。

ローカルビジネスとの実験

一方、私がコラボしているローカルビジネスの場合、製造者から直接商品を卸してもらいます。そして

・デザイン
・パッケージング
・プロモーション
・販売

といった工程を、私の会社で担います。大手企業は生産量が莫大なので薄利多売でも利益を出すことができますが、ローカルビジネスはそうはいきません。価格競争では、どうしても不利になります。だからこそ、商品が店頭に届くまでのコスト構造をできるだけ整理しながら、ローカルならではの価値をきちんと伝えることで、適正な価格で商品を届ける構造を作りたいと思いました。結果として、大手企業の商品と同じくらいの価格、あるいはそれ以下の価格でありながら、「ローカルビジネスならではの価値」を理解して購入してもらえる状態を作れないか。それは、ひとつの実験でもありました。デザインのクオリティについては、30年近くデザイナーの仕事をしてきたこともあって、企業が外部に依頼するような水準のものを作ること自体は、私にとってそれほど特別なことではありません。もちろん、長くこの仕事をしていればそれくらいは出来ないと困るのですが。ただ、私自身がずっと気になっていたのは、実際の売り場の風景でした。

売り場を見るということ

多くのデザインは、会議室や机の上で考えられ、プロモーション用のビジュアルが作られます。でも、その商品が売り場でどんなふうに手に取られ、どんな会話の中で買われていくのか。ボストンではじめて小売店を経営したとき、デザイナーとして多くの学びがありました。沖縄では、その経験をもとに、seeemwhykというお店で改めてそれを実践してみることにしました。ローカルメーカーとコラボして商品を作り、デザインをして、実際に店頭で販売する。お客さんがどんな表情で商品を手に取るのか。どんな会話をしながら購入していくのか。どの商品が売れて、どの商品が棚に残るのか。そしてその理由は何なのか。そういったことを知り、それを次のデザインに活かしていく。その一連のプロセスが、私にとってはとても楽しいものでした。3年間お店を続ける中で、机の上では見えなかったことが本当にたくさん見えてきました。少し話を戻すと、私がやりたかったのは、大手企業が作っている流れの中でどうしても複雑になりがちなコスト構造を整理しながら、デザイン、プロモーション、販売までを小さなスケールで一体的に行うことでした。そしてその中で、できるだけ多くの利益が製造者に還元される仕組みが作れるのかを見てみたかったのです。そんな話を番組でしたところ、やはり沖縄の人気番組ということもあってさまざまな反響がありました。その中で多かったのが、「デザインで値段を上げているんですね」というような反応でした。

でも、これは少し違います。デザインは、値段を吊り上げるための装飾ではありません。

デザインの役割

私が考えているデザインは、商品を販売するために必要な

流通
デザイン
プロモーション

といったさまざまな要素を整理しながら、状況に合った形で価値を伝えることです。その結果として、「この商品は600円の価値がある」と自然に感じてもらえる状態が生まれる。

順番としては

価値を理解する

価値を伝える

価格が成立する

なのであって、

価格を上げる

デザインでごまかす

ではないと思っています。

「デザイン料を払うので、この1000円の商品を2000円くらいに見せることは出来ませんか」という相談を頂いたこともありました。ただ、そういう話を聞くと、デザインというものが少し違う形で理解されているのかもしれないなと感じます。それよりも、この商品は誰にとって価値があるのか。その価値は今きちんと伝わっているのか。そもそも売り方の構造は合っているのか。そういうことを一緒に考える方が、結果として長く売れる商品になることが多いからです。デザインは、価格を操作するためのテクニックではなく、本来ある価値をきちんと届く形に整える仕事。

Design is not about marking up the margin.

デザインは、利益率に魔法をかける仕事ではありません。

価値がきちんと届く状態を設計すること。それが、デザインの役割なのではないかと私は思っています。